王様の殺人未遂犯メロスの素顔に迫る

 我々はメロス被告を長期間取材した太宰氏と接触し、そのレポートを独占入手できた。そこから浮かび上がってきたメロス被告の素顔は驚くべきものだった。

メロスは激怒した。必ず、かの邪知暴虐の王を除かなければならぬと決意した。メロスには政治がわからぬ。メロスは、村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。

  ここから以下の点が浮かび上がってきた。

  • 短絡的に激情する性格である
  • 政治については知識がない
  • 正義感が強い
  • 仕事には比較的真面目に取り組んでいた

 とくに注目すべき点、政治についての知識がないにも関わらず、王の殺害をもくろんだことである。危険な思想を持った若者であることが伺える。

 一方で

老爺は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。
「王様は、人を殺します。」
「なぜ殺すのだ。」
「悪心を抱いている、というのですが、誰もそんな、悪心を持っては居りませぬ。」
「たくさんの人を殺したのか。」
「はい、はじめは王様の妹婿さまを。それから、御自身のお世嗣を。それから、妹さまを。それから、妹さまの御子さまを。それから、皇后さまを。それから、賢臣のアレキス様を。」
「おどろいた。国王は乱心か。」
「いいえ、乱心ではございませぬ。人を、信ずる事が出来ぬ、というのです。このごろは、臣下の心をも、お疑いになり、少しく派手な暮しをしている者には、人質ひとりずつ差し出すことを命じて居ります。御命令を拒めば十字架にかけられて、殺されます。きょうは、六人殺されました。」

 という供述もあり、メロスは村人のことを慮っての犯行であったことも伺える。

 

ごめん、飽きた。